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仕事を終え帰宅した会社員が見たものは、腹を裂かれて死んでいる臨月の妻と、腹から取り出され泣いている赤ん坊だった。
■事件概要
1988年3月18日午後7時40分頃、名古屋市中川区の新興住宅地のマンションの一室で臨月を迎えていた守屋美津子さん（27歳）が殺されているのを仕事から帰宅した夫のAさん（当時31歳）が発見した。
美津子さんは両手を縛り上げられ、電気コードで絞殺された上、カッターのような薄い刃物で腹部を縦３８センチ、深さ２．８センチほど裂かれて、その傷口から胎児が取り出されていた。へその緒はすでに切られていた。
そして、 美津子さんの子宮の中には、取り出された赤ん坊の代わりに、車のキーや電話が詰められていた。
警察は初動捜査で被疑者を夫のみに絞り、 その後捜査範囲を広げたものの、決定的な事実を掴むことはできず、 2003年3月18日に時効が成立した。
胎児はひざの裏、大腿の裏、股間の３ヶ所に傷を負っていたものの、およそ１時間の手術を受けて無事一命を取り留め、現在は通常の暮らしを送っている。
■事件発覚の経緯
1988年3月18日午後1時頃、名古屋市中川区富田町のAさん（当時31歳）は出産予定日を過ぎても出産しない臨月の妻の守屋美津子さん（27歳）の様子を伺うため、ここ数日そうしていたように、仕事場から自宅に電話を入れた。
妻の様子はいつもと変わりなかった。
同日午後6時50分頃、Aさんは仕事場から再び、臨月の妻の様子を伺うためまた自宅に電話をした。
通常なら3回コール以内に出るはずの妻は、10回コ−ルしても出ることはなかった。
胸騒ぎを覚えたAさんは、急いで帰宅をする。
名古屋駅から近鉄線に乗り戸田駅で下車。そして戸田駅から自宅まで徒歩5分。
午後7時40分頃、自宅のあるマンション前に到着。
マンションの2階にある自宅の見ると明かりはついていなかった。また、その時間に取り込まれているはずの洗濯物も取り込まれてはいなかった。
急ぎ足で階段を昇り、自宅に到着。
ドアノブを回すと、いつもなら施錠してあるはずのドアが開いた。
部屋は真っ暗で美津子さんの姿は見えなかった。
Aさんがスーツから部屋着に着替えていると、家の奥にある居間から赤ん坊の泣き声が聞こえたような気がした。
最初は空耳だと思ったが、念のために様子を伺いにその部屋へ向かう。
その部屋でAさんが目にしたものは、マタニティドレスを着て、ピンク色のジャンパーを羽織り、仰向けに倒れたまま動かない美津子さんだった。
美津子さんは両手を後ろ手に縛られており、電気こたつに接続されたままのコタツのコードで首を絞められていた。この時点で美津子さんは呼吸をしていなかった。
Aさんはすぐに妻をを中心に血だまりが広がっていることに気づいた。 妻の腹部は30ｃｍほど切り裂かれていた。
そして、電気こたつの横で足を大きく広げられた妻の足の間で、美津子さんの裂かれた腹部から取り出されたであろう赤ん坊が泣いていた。
Aさんはすぐに救急車を呼ぶ為に電話を置いてある玄関に向かった。
しかし、 普段あるはずの位置にプッシュホン電話がなかった。コードは切断されていた。
階下の住人に電話を借り、救急車を呼んだ。
赤ん坊はひざの裏、大腿の裏、股間の３ヶ所に傷を負っていたものの、およそ１時間の手術を受けて無事一命を取り留めた。
■捜査経緯
警察が到着し現場検証が始まると、すぐに行方不明だった電話の所在がわかった。 取り出された赤ん坊の代わりに、妻の子宮にミッキーマウスのキーホルダー付きの車の鍵と一緒に詰め込まれていたのだ。
美津子さんの死因はコタツの電気コードによる絞殺。
胃の内容物から午後3時過ぎに殺害されたと見られる。
腹部は鋭利な刃物で縦38cm、深さ2.8cmに渡って切り裂かれており、凶器らしきものは現場には残されていなかった。
性的暴行の形跡や激しく抵抗した跡はなかった。
台所で血を洗い流した様子が伺える。
指紋はきれいにふき取られていた。
警察は初動捜査で被疑者を夫のみに絞った。
理由は家の異常に気づきながら、妻を捜す前にスーツから着替えていたこと。
もう一つの理由は、報道陣の前で、「妻はワインが好きだったのでワインを注がせてください。」といいながらグラスに赤ワインを注ぎ、霊前に供えたこの行為をパフォーマンスと考えた者が多かったようだ。
しかし、美津子さんの死亡推定時刻には夫は職場にいたため、疑いは晴れることとなった。
美津子さんはサイドビジネスとして家庭用品販売をしており、事件当日の午後1時50分頃に近くの主婦が子連れで美津子さん方を訪れ、２千数百円で脱臭剤を購入している。主婦が支払ったお金を受け取ると、美津子さんは自分の財布にしまったが、後に犯人に盗まれる。
しかし、犯人は財布を盗んだものの、他の金目の物には一切手をつけていなかった。
午後3時頃、美津子さんは階下の駐車場までこの主婦を送っていったが、この間鍵をかけずに出ていた。犯人はこの隙に家に侵入し、自宅に戻ってきた美津子さんと鉢合わせになったという見方もある。訪問した主婦は手みやげにイチゴを持って来ており、一緒に食べたが、発見された時はその食器がコタツの上に置かれたままだった。
階下に住む主婦が、当日の午後3時10分から20分頃の間に不審な男を目撃していた。
その主婦の証言によると、自宅玄関のドアノブをガチャガチャ回される音がし、 その後チャイムを鳴らされたため、出てみると、身長165ｃｍで30歳前後くらいのサラリーマン風の小柄な男がおり、「ナカムラさんのところを知りませんか？」と聞いてきたという。主婦は「知りません」と言ってすぐにドアを閉めた。
この男は現場付近で何人かの人に目撃されていた。近鉄戸田駅方面からアパートやマンションを一軒一軒伺いながら歩いていたという。
警察はこの男の行方を追ったが、足取りはつかめなかった。
事件の決定的な事実を掴むことができないまま、2003年（平成15年）3月18日、公訴時効が成立した。
参考文献
廣済堂出版 「未解決殺人事件ファイル」
田宮榮一・監修 桐島卓 塩見拓也・編著
新人物往来社 「別冊歴史読本 殺人百科データファイル」
新潮社 「殺人者はそこにいる」 新潮45編集部・編
ワニマガジン社 「消えた殺人者たち 誰が彼、彼女を殺したか？」
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